【ちょっとだけネタバレ注意】DNAに刻まれたビート 伊福部昭「宇宙大戦争マーチ」
シン・ゴジラ観てきました。最初はそれほど興味がなかったのですが、異常なまでの前評判の良さだったので興味を持ちました。でも考えてみればゴジラに庵野秀明、鉄道、そして伊福部昭って俺が楽しめないわけないんですよね。
■初代ゴジラへのリスペクトと追体験
映画のなかでは、初代を意識させる場面が、それも焼き直しではなくきちんと解釈した上でいくつも見られたのが好印象でした。
謎の巨大生物が表れたときの人々の戸惑い、圧倒的な大きさと力に対する恐怖と無力感が破綻なく描かれていました。ゴジラ映画は何本か見ましたが、はじめて恐いと感じました。初代を観た半世紀前の人たちはこういう恐さを感じたのではないかな、と図らずも追体験をすることになりました。
■随所に散りばめられた庵野ワールド
観に行く前は、「エヴァの出てこないエヴァなんだろうな」と、あまりいい期待をしていませんでした。実際に見てみると、ストーリー全体としてエヴァを意識させられることはなく、きちんとゴジラとして見ることができました。
それでも、フォントの使い方やBGMでは庵野作品のモチーフが入っていたのが面白かったです。無理矢理組み込んだいやらしさがなく素直に受け入れられました。
■宇宙大戦争マーチのこと
映画のことはこのくらいにしておいて…普段あまり観ないから感想書きづらい。。
「宇宙大戦争マーチ」の初出は1959年公開の映画「宇宙大戦争」のテーマ曲。さすがに観たことがなく、wikiであらすじをさらっただけですが、今から見るとなかなかレトロなSF映画です。そのテーマ曲としては随分と勇ましい感じがします。こればかりは観てみないと分からないところですね(でも緑茶のCMよりは似合うか…)。
後でもちらっと話しますが、伊福部昭が音楽を担当した作品ではアレンジや使い回しが多く見られます。楽をしているからといえばそこまでですけど、一曲ごとの完成度が高いからこそ成せる技かなと個人的には肯定的に見ています。
事実、サントラで用いられた数々の作品は「SF交響ファンタジー」としてクラシックコンサートのプログラムにも組み込まれる作品にまとめられています。
■エッセンスを凝縮
宇宙大戦争マーチですが、この曲は言えば二部構成になっています。
一部では幅のある導入部から、スネアが刻む緊張感のあるリズムに合わせて勇ましさを感じるメロディが繰り返されます。中盤のピアノによる不協和音、終盤の木管による不安を煽るトリルを打ち消すように、主旋律が頼もしさを増して重ねてきます。
二部はトランペットのファンファーレからはじまり、前半から一変してアップテンポへ。ボルテージは徐々に上げつつも、変拍子(厳密にはちょっと違うけど)で時々息を整えて冷静さも保ちながら進んでいきます。キャッチーで、「男らしさ、力強さ」をそのまま音楽にしたようなメロディが繰り返されていきます。
スネアは速さの違いこそあれど変わらないリズムを打ち続け、曲の連続性を主張しています。低音パートはほぼ同じ音を続けているだけですが、力強さを下から支えています。
個人的には、終盤でのピアノの主旋律がちゃっかりリズムを刻んでいるところ、その直後はあえて淡々と演奏してファンファーレを際立たせているところが大好きです。
あれやこれや言っていますが、やっぱり勢いありきの音楽ですね。
曲のつくり方(前半が重々しくかつ遅い一方で、後半は速い)は「交響譚詩」「日本狂詩曲」と同様で、そのエッセンスを濃縮した印象です。曲の長さは4分程度なので、手軽に聴けるクラシック作品と言っても差し支えはないかもしれません。
それにしても作中での使われ方は反則ですね。N700の特攻に合わせてこれが流れるのは反則だよ!!反則だって!!!!
■伊福部昭の「ビート」と日本人
自分自身がコントラバス弾きということで、嫌でもベースに耳がいってしまいます。
「宇宙大戦争マーチ」に限ったことではないのですが、伊福部昭作品の低音は8分音符で同じ音をアクセントを交えつつ鳴らす箇所が多くなっています。ポップス的に言えば「刻み」ですね。
クラシック音楽は伝統的かつ文法的にリズム、ビートをあまり意識させない、させてはいけないつくりになっています。指先や足で拍をとることは頻繁にありますが、リズムに合わせて身体を揺らす、踊らせることはなかなかありません。極端に言えば「ボレロ」でヘドバンする人がいないようなものです。
一方で、伊福部昭作品はリズムを刻んでいくことを全く恐れていません。行進曲であろうとなかろうと、力強さの象徴として、スピード感を出す推進力として多用しています。
けれども僕自身はそれだけだと思いません。本来の意味からは外れてしまいますが、ポップスやロックにおけるビートに近い役割、概念を打ち出したと考えています。特に、日本の音楽において、歌謡曲からロックンロールへの橋渡しをした存在ではないかと推測しています。
メロディを支える低音および打楽器が、和太鼓のような響きを出している点は見逃せません。日本的メロディのなかにノリやすいリズムを加えたことによる影響は、クラシックだけではないはずです。日本人が好む響きで新たな概念を打ち出せば自然と受け入れられることでしょう。
幸いなことに、伊福部昭は映画音楽をはじめ、クラシック作曲家としては多くの人の耳に触れる機会が多かったです。聴かれていくなかで、日本人の音楽の感性が育まれていったことでしょう。
ここで誤解をして欲しくないのは、宇宙大戦争マーチで踊れるということを言ってるわけではありません。しかし、日本人の心臓をがっちりと掴んで揺さぶってくるビートがそこにあると思います。
■おまけ1:伊福部昭と鉄道
シン・ゴジラではシンプルなかっこ良さがありましたが、伊福部昭作品と鉄道の映像では「つばめを動かす人たち」も絶妙です。重々しいメロディと共に動く車両たちは感涙ものです(鉄道オタク並の感想)。
しかし、調べるとここで使われた音楽がメカゴジラのテーマにアレンジされていることを知りました。確かにEF58型電気機関車のメカニカルな感じ(後半はC62型蒸気機関車が出てくるため余計に近代的に見える)とマッチしていたので、使い回されたのはちょっと納得ではあります。
■おまけ2:ゴジラ展
上映後の帰りがけに、一緒に観に行った人に過去のゴジラ作品についてあれこれ解説をしたのですが、よくよく考えると観た作品ってほんの少しで「おやっ」と感じました。ほぼ見てないはずなのに、ストーリーやシーンは何となく頭に入っている…。不思議に思い、記憶を辿ってみると、小学生の頃(4年生くらい?)に地元でやっていた「ゴジラ展」に一人で行ったことを思い出しました。ここで一通りおさらいをしていたわけでした。初代作品は会場内でしっかりと上映してた気もするし、ここで覚えてきたのかな。
■注釈
今回の記事では、スコアは読んでいないです。曲目解説では読むべきではありますが、第一印象で判断するポップス的な聴き方を意識してみました。クラシック畑の人からするとミスリードだらけかと思いますが、ご理解ください。
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…思い返すだけで前回の記事が破綻してて恥ずかしい。f字孔があったら入りたい。
この音は世界に届くのか? サカナクション「sakanaction」
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「orbital period」(BUMP OF CHICKEN)
中学生の頃にやっていたブログは、記事タイトルを曲名とし(これは今も続いている)、冒頭でその曲のレビューを書いていた。当時の友人たちからは賛否両論あったが、毎日更新していたこと、それだけ音楽を自分なりに解釈していたことは今思えば結構すごいと感じている。
大学四回生の終わりとなり、あと二ヶ月もすれば社会人となるタイミングでこれを作ろうと思ったのは、中学生の頃より語彙も聴いた音楽の数も増えた今、どれだけ音楽と向き合えるかを確かめてみたいと思ったからである。
最初に書いてみるのは、きのう結成20周年ライブを行ったBUMP OF CHICKENの「orbital period」である。それこそ中学生の頃に発表され、発売をとにかく楽しみにしていた作品である。後にも先にも新作を楽しみにした経験はこれっきりである。発売から8年が経ったが、今も定期的に聴き返すアルバムである。
1曲目の「voyager」から17曲目の「flyby」まで、歌詞、音楽ともに全曲を通して一連の物語が出来上がっている。バンプのアルバムでは他のバンドよりも物語性が捉えやすいと思っているが、前作「ユグドラシル」や後作「COSMONAUT」よりもまとまりが良い印象である。7曲目「ハンマーソングと痛みの塔」から10曲目「花の名」までは中弛みをしている感はあるが、弛緩しきっているわけではないのがこの作品の強みである。特に9曲目「かさぶたぶたぶ」のキャッチーでややコミカルなメロディと、可愛らしいだけではない歌詞が、気の抜けた耳に突き刺さってくる。前後作ではアルバム単位で聴くと飽きてしまうのと比較すると、その弛みもきちんと考慮されているように感じる。
2曲目「星の鳥」から6曲目「supernova」、11曲目「ひとりごと」から16曲目「涙のふるさと」までの緩急の付け方は絶妙である。きれいな山を描くグラフのように楽曲が続き、心の盛り上がりとヒートダウンまで気持ちよく体感できる。ためらいなく音楽を楽しめ、歌詞を聴いて深めることができる。
宇宙を連想させるメロディやアルバムタイトル、ジャケットとは対照的に、歌詞については自分の近くで歌われているように感じられる。想像し難い冷たさや暑さの存在する遠い不思議な世界ではなく、地に足をつけている自分達の、日常とそのちょっと先にあるものの視点で丁寧に語られている。この傾向は後作以降でより進化し、バンドの方向性にも明確に反映されてきている。
この記事を書く前に、ふと気になって他の方のレビューやwikiを読んでいた。自分より遥かに深めていて読み応えがあったのはもちろんであるが、当時は知らなかった裏話などを知ることができて面白かった。聴きこんだ作品であるからこそ、新たな話を知ることが楽しい。
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