ロキノン爺の逆襲

音楽のことをつらつらと。主にアルバム、曲のレビュー

邦楽ロックへの変化球 SPECIAL OTHERS「Good Morning」

 

「これをロックンロールに含めてもいいのか?」

初めて聴いたときの感想はそれだった。歌がなく、ド派手な演奏をするわけでもない。ボーカルがいないというだけで大人しく感じられた。

 

2回目に聴いた時、その頃にはクラシックをはじめた頃だったか、演奏の上手さと曲の展開の幅広さみ驚かされた。ロックとしてだけであればさほど響かなかったが、自分の音楽の幅を広げてからその良さに気付いた。

 

続きを読む

2018年5月の好きな曲まとめ

GWの真ん中あたりにTwitterでまわってきたハッシュタグ

をなんとなくやってみた。なにしろびびるぐらい暇だったので…。

 

法・洋・ジャンル問わず適当にチョイスをしてみたら結構楽しかったので備忘録も兼ねて再掲載。

続きを読む

星と月のヒーローがそこにいる メレンゲ「僕らについて」

 

www.youtube.com

 

4年ほど前、カルチャー誌「Swich」を手に取った。特集は卓球マンガ「ピンポン」の特集だった。

特集名は「HEROES ヒーローを待ちながら」。この作品のキーワードを出したコピーにやられてレジへ持って行った。

 

■「ピンポン」、SUPERCAR

「ピンポン」は、映画を見てからマンガを読んだ。未だアニメは見れていない。

映画がとにかく強烈に印象に残っていた。家族と初めて観たときはやや意味が分からなかったが、中学生の、卓球部に所属しつつエレキベースを一人家で弾いていた頃に観なおしたときは強烈に響いた。ベタな物語ながらもキャラクターの個性と葛藤、それに重なるテクノを中心としたサントラ、楽曲の数々。ちょっとだけ知識があったので、卓球のシーンも面白かった。今まで観た邦画のなかでも特にお気に入りだ。既にSUPERCARというバンドを知ったのもこのときだ。主題歌「YUMEGIWA LAST BOY」は口ずさめるようになっていた。

 

■跳躍の瞬間へ

表題の曲について。

聴いた時、SUPERCARの新曲か?と思ってしまった。サウンド然り、コーラス然り。もちろん、歌を聴けばメレンゲだと分かるが、映画の「ピンポン」を意識した曲の作りに思わず引っ張られてしまった。

「赤い陽」「夢」「光りだす」と前向きな言葉が並び、爽やかさと力強さが特徴の詞になっている。テクノっぽいと言ってしまえば安直になるが、未来や明るさを想起させるサウンドが、曲の持つ前進する印象を強くさせている。

 

 

冒頭で出てくるフレーズ。投げやりな表現で、もう何も存在しないかのような歌詞に、サウンドと対照的に曲が暗い展開へ進むかと緊張させられる。

 

夢ではない そうでもない

僕らはね ここにもない

 誰かのタバコを吸って 一息ついたら

光りだす俺 決意の絵文字

 

しかし、そこから続くサビでは小さくも大きな跳躍を表現している。今の場所で留まることを良しとしない、成長と進化を示した一曲を見事に象徴している。

 

大人一人 まだ飛べるのだ

 

 このフレーズが気に入っている。たぶん映画の冒頭のシーンを思い起こさせるからだろう。

 

江ノ島を俯瞰して

これは「ピンポン」という作品を全て網羅した不思議な曲である。映画の要素もあり、マンガを想起させると思えば、アニメの主題歌としてもきっちりマッチする。

曲単体だと、メレンゲのなかでは異色の作りに思えが、他作品との調和がよく取れた良作である。

 

夢ではない そうでもない

まだ足りない もしもの時あらわる

テレキャス持って 灯りともったら

歌いだす俺 いざエモーショナル

 

歌詞ではテレキャスを持っているが、もしもの時に来てくれるとするなら、右ペンソフト速攻タイプの彼だろうなと想像してしまう。

決して弱音を吐かない生き様 チャットモンチー「生命力」

 

 

■ロックンロールだけで駆け上がった

ガールズバンド史はよく知らないので、完全にイメージだけで話してしまうが、日本ではどうもアイドル寄りの路線になって、活動を終えると異様に美化されてしまう印象がある。音楽性は二の次であるのは然りである。チャットモンチーはそんな風潮に流されず、また媚びることもなく、音楽だけで00年代のヒットチャートを登っていった。その姿は非常に清々しかった。

 

■隅々まで冴え渡る音楽たち

このアルバムでは、前作「耳鳴り」での迷いが断ち切れたことが聴き取れる。歌詞はファンシーさを残しつつもシニカルでありアイロニカルであり、気を抜くと刺してくる表現が増えた。

演奏では前作から驚異的な飛躍を見せた。三人によるアンサンブルで表現できる限界の域まで作り込まれている。音はシンプルなはずなのに、なぜここまで深掘りできるのかと恐ろしくなるほど音の密度が濃い。

 

1曲目「親知らず」は、アルバムの幕開けにしては哀愁が漂ってある。一人暮らしの人は多少なりとも心を掴まれてしまうのではないだろうか。そんな心情をフォークソングのように歌い上げていく。

 

キュートでポップなふりをした脅威のロックチューン「シャングリラ」の次は、歌声と歌詞のギャップが個性的な4曲目「世界が終わる夜に」。可愛らしい歌い方だが、何かにすがろうとする思いが歌声に乗っている。絶望的な感情を様々な言い回しで表現していて、その辛さがじわじわと心に入ってくる。

 

「とび魚のバタフライ」「橙」はガールズバンドの典型的な形をよく示している(決して馬鹿にしているわけではないので誤解なきように)。この辺りの楽曲に影響を受けたミュージシャンは相当多いだろう。

そのような曲から一転、彼女達らしいロックンロールを提示しているのは9曲目「真夜中遊園地」。ファンシーさとリアルさを行き来する世界観からは時にゾッとするような表現が顔を出す。前述したが、三人だけの音で作ったこと、その実力がよく分かる一曲だ。

 

それとは対照的な、可愛らしさが全開なのは11曲目の「バスロマンス」である。なんというか、いいなーって感じ。男がウダウダ言うのもアレなので語彙力落としておくからとりあえず聴き直してみて。

 

変幻自在な世界を見せてくれたアルバムは、13曲目「ミカヅキ」でしっとりと幕を閉じる。

 

■どれを取っても最高峰だった

ガールズバンド云々を中心にまとめているが、ロックバンドとして、特にスリーピースとしてのレベルの高さも引き立つ。いったい前作「耳鳴り」からどんな修行をしてきたのだろうか。

前作での方向性を概ね深化させるように舵を切ったことで成しえたこのアルバムである。中途半端にポップに寄らず(全く寄ってないわけではないけど)にいたことが大正解だった。道は多くあるなかで深めることを選んだ度胸とプライドに感服する。

 一方で、少し斜に構えた見方をすれば、ここでやり切ってしまったのかもしれない。同じ方向性に向かうには、色んな力を借りなければ苦しかったと思われる。もしくは方向性を曲げられるか。どちらにせよ、苦しい道になることは間違いなかっただろう。

 

ガールズバンドは星の数ほどいるし、色んな良さと方向性を持っている。けれど彼女たちがナンバーワンだ。

疾走と屈折で身体を揺らす ドミコ「hey,hey,my my?」

 

 

名前だけは知ってたが曲を聴いたのはこのアルバムから。最先端を追いきれない自分によくあるパターンだ…。このアルバムはなかなか好評らしい。

 

・冴え渡るサウンド、ファンキーに歌うボーカル

聴いてみた第一印象は、音が非常に良い。グルーヴが絶妙で、どんな曲調でも驚異的な安定感を示している。

ボーカルの歌い方はファンキーであり、気だるさに耳が持っていかれがちだが、高音の伸び、サウンドとの調和をよく考えている。ボーカル、サウンド共に表現力の高さが光る。

 

・揺れと焦らしに危うさ

2曲目「こんなのおかしくない?」。もはやプログレの領域に踏み込んでいるテンポの揺らし方が圧巻だ。3分強の曲中で場面が目まぐるしく変わる。危うさも感じさせるその動きにグイグイ引き寄せられる。

変化は激しいなかでもギターが同じリフを刻み続けていることで曲の主題を忘れさせていない。些細なところのようで、曲のメインテーマを整える重要なパーツである。

サビ手前で歌とサウンドが一体になって押し寄せ、跳躍を予感させる…かと思えば揺らしてくる。ちょっと変態である。

 

・ハイレベルなアルバムが作れている…!!

一曲のみ取り上げたが、このアルバムではファンキーさが光る「マカロニグラタン」、うって変わってアコースティックなサウンドで丁寧につくられた「怪獣たちは」、アルバム中で最もポップだが一筋縄ではいかない「くじらの巣」、粒揃いの曲たちが続く。

アルバムという形態をきちんと理解し、咀嚼していて、通して聴いたときのバランスが良い。昨今はアルバムというリリース単位が難しい局面だが、臆せず作り上げていることは非常に好印象である。

 

活躍が楽しみであること、ライブも気になる(音源聴いた限りではかなりすごそう)のは当然だが、もう次の新曲、新アルバムのリリースが楽しみだ。

最先端の水辺を進む sui sui duck「feel」

例によって例のごとくラジオを流していると、面白い曲が流れてきた。最近の流行かつ自分自身もハマっているポップなサウンドの上にシンセが乗っかっている。先端の音楽を破綻せずに織り交ぜている。

 

バンド名は「sui sui duck」。可愛らしくて覚えやすい、いい名前。

https://static.wixstatic.com/media/f19766_d4c73611ce494627af1f2854132ad396~mv2_d_5620_3161_s_4_2.jpg/v1/fill/w_600,h_337,al_c,q_80,usm_0.66_1.00_0.01/f19766_d4c73611ce494627af1f2854132ad396~mv2_d_5620_3161_s_4_2.jpg

(引用:https://www.suisuiduck.com/biography)

でも写真を見ると…あまりスイスイしている感じではない。

 

アートワークが非常に充実していることが面白い。サイトの構成やデザイン、ロゴが取っつきやすい。バンドよりも一つのアートチームを眺めているような感覚になる。

(でもlyricのページがリンクずれてたりURLがおかしかったりしてるから直してほしいな…)

 

最初に聴いた曲は最新EPのリード曲「feel」。ポップなのか、でもシティポップのようで、けれどEDMでもある…?ジャンル分けをしようと思うと難しいサウンドだ。冒頭にも書いたが、破綻なく織り交ぜていることで、自然と耳がいく。

歌詞が非常に聞き取りづらい。英語かと思うけど、よく聞くとほぼ日本語で歌っている。日本語を崩し気味で歌うバンドは今にはじまったことじゃないので悪いとは全く思わない。むしろ、音楽としての浮遊感が高まっていて効果的であると思う。

詞を見てみると(公式サイトに掲載されていた)、情報量が多いことに驚く。かなり畳みかけるように歌っていることが読むことで分かった。

2曲目「circle」では、バンドの視点と言うか世界観というか、どのような切り口を持っているかがより明確に示されている。

対比的な僕ら違いを間違いと言う
理知的な論を少し展開してみない?
私的になった電卓各所でミスを誘発
功利的な案を少し展開してみない?

なかなかアイロニカルな詞で興味を惹いた。サウンドに引き込まれているばかりだと歌詞で思わぬカウンターを打ってくる。

5曲目「pepper」では、ポップな一面がより強調されている。軽くはねているサウンドとゲームのような歌詞が程よいスピードで展開されている。韻の踏み方も相まって、この曲もやはり日本語には聞こえにくく、洋楽かと錯覚する。

 

カテゴライズが難しいバンドだが、様々な面で現代的、最先端だ。音楽が洗練されたバンドも大好きだが、新しいものへの貪欲さがあるバンドが出て来るのは心強い。

 

音源やネットのアートワークばかり注目しているが、実力が非常に気になる。ライブに足を運んで確かめてみたい。結成から日が浅いから…と思ってなめてかかるといい意味で裏切ってくれることを期待している。

ロッカーが詰まっていた、飛び立っていった。「シンクロナイズド・ロッカーズ」

 

シンクロナイズド・ロッカーズ

シンクロナイズド・ロッカーズ

 

 ◆原石をコンプリートしていた

このアルバムが発売されて13年が経ち、自分がこのアルバムを聴いてから10年以上経った。聴いたのが中学生の頃だったせいか、今も驚くほど色あせないで聴くことができる。
改めて参加アーティストを見ると、その豪華さに驚いてしまう。ミスチルは今も国民的バンドのままだが、バンプはそれに迫る勢いで成長し、テナーは人数が倍になり、そしてエルレは伝説となった。聴いてた当時は想像もしていなかったが、参加アーティスト名を羅列しただけで、すごいアルバムになってしまった。先見の明と言うのが適切かは分からないが、ロッカーの原石を集めていることが非常に興味深い。
そんな先取りをしたおかげで、Funny Bunnyはエルレの曲、ハイブリッド・レインボウはバンプの曲だと若い子は勘違いをしてしまうそうだ。

 ◆トリビュートアルバム入門編、ピロウズ入門編

「若い子は~」と言っているが、自分だってピロウズの入りはこのアルバムだから偉そうなことは言えない。これを聴いてから、オリジナルのアルバムに手を出して聴いてきた。

原曲とトリビュートを聴き比べて、「ストレンジカメレオンはサビの歌いまわしが綺麗でミスチルのほうがいい」「ハイブリッドレインボウはシャウトの感じで原曲のほうがいい」と比較をしていた。

そのうちそういう比較が不毛だと気付いた。原曲がいいとか、原曲に近いアレンジがいいとか、アーティストの技量とかが問題ではない。参加したアーティストが楽曲と真正面から向かい合って出した答えを披露してくれるのがトリビュートアルバム。そんな楽しみ方を教えてくれた一枚でもあった。

 ◆大御所にも出会えた

参加していたバンドの若手(当時)をピックアップしたけど、大御所側もすごかった。ピーズにYO-KING佐藤竹善など。知ってはいたけど何から聴けばいいのか…という存在に触れることができた。

特に、佐藤竹善の「カーニバル」は強烈だった。そつないようで、身体の芯まで響いてくるソウルフルな歌い方、サビの最後でのおどけ方もファンキーで抜かりない。ロックを聴き始めて半年弱ぐらいの時期にこれに出会い、それまで聴いてきた歌とは全く違う存在、こんな自在な歌い方ができるアーティストがいることが衝撃的であった。

 ◆音楽と音楽環境の思い出補正

このアルバムを聴いたのは中学2年生の頃。自宅にあるパソコンはボロボロでネットは繋がらず、CDのコピーすらできなかった。週末は電車を撮るためにお小遣いを使っていた自分にはCDを買うのはおろかレンタルして手元に残すのも一苦労だった。そんな思い出補正もかかってか、このアルバムが今も輝いている。

 

余談だが、大学一回生か二回生の夏に「休みの間にピロウズのアルバムをぜんぶ聴く」という目標を立てたが、5枚目くらいであえなく撃沈した記憶がある。今なら全部聴けるかな…でも体力に自信がない。

 

パソコンとそれに繋いだオーディオで、apple musicから取り込んだ楽曲を聴ける毎日になった。10年前のことがちょっと懐かしい。

 

この記事を書こうと思ったのは、先日、ストレイテナーのトリビュートアルバムが発売されて、それにピロウズが参加しているのを発見したためである。13年越しに逆に参加するという流れがかっこいいなと感じた。上から目線だが、それだけストレイテナーが成長できたんだなとも思う。また歌ってる曲がいいんだよな…この感想もそのうち。