ロキノン爺の逆襲

音楽のことをつらつらと。主にアルバム、曲のレビュー

名曲に阪急マルーンを添えて 「くるり的阪急京都線沿線再発見スタンプラリー」


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シン・ゴジラで書いたらPVが伸びて感動…。ありがとうございます。

 

 

さて、「元「京都の大学生」が語る、くるりと京都」というタイトルで下書きをしていた記事がありました。

それをぼちぼち進めようと思ったところで、こんなニュースが飛び込んできました。

 

 「くるり×阪急電鉄スタンプラリーで京都の魅力を再発見」(ナタリー)

 http://natalie.mu/music/news/201078

 

阪急電車くるりとは…!!自分のためだけにある企画なのではないかと思いました 笑

大学二回生まで、阪急電車でアルバイトをしていました。河原町駅から桂駅にかけてが管轄エリアで、朝晩の通勤客を相手していました。マイク放送もやったりしていました。

 

今回は、スタンプラリーで取り上げられている駅と楽曲をレビューしていきます。

 

 

■ 河原町×リバー

 河原町駅は鴨川のほとりにある、阪急京都本線の始発駅。と行っても駅は地下なので、川が見えるわけではありませんが。駅の改札口の目の前には高島屋か京都マルイ(元阪急百貨店)の出入口がある街の中心であります。

 

リバーは、バンジョーによるカントリー調のイントロが印象的な曲。詞にはちょっとした焦りと、それに対する諦めがぐるぐるする、一筋縄ではいかない情景を歌い上げています。「寂しくて 寂しくて 羽がもげそうさ」とあるように、にっちもさっちもいかない現状を嘆き悲しんでいます。メロディの明るさに耳を奪われますが、誰もが経験のあるどうしようもない状態、気持ちを少しでも打破しようとあえて軽やかに歌い上げようとしているように感じられます。

ポップでありブルースでもある、しかしブルース的でもあると様々な音楽性を含んだ一曲です。

 

■ 烏丸×京都の大学生

 烏丸駅は、京都駅前から御所のほうへ北に伸びる烏丸通と阪急の上を通る四条通との交差点、京都的に言えば「四条烏丸」の直下(厳密には違うけど…まぁ許して)にあります。四条烏丸周辺はオフィス街で、朝晩は通勤客の乗降が多いです。祇園祭宵山では山鉾への最寄りということもあり、山手線も真っ青な大混雑となります。

 

京都の大学生では、「四条烏丸西入ル」と歌われますが、これは四条烏丸の交差点を西に行ったブロックを指します。「鉾町生まれ」というのも、祇園祭で用いられている山鉾を維持管理している町内を鉾町と呼んでいます。

京都は大学が多く、町中に学生が溢れています。また、喫茶店、カフェも多いので意外とコーヒーが似合ったりもします。

イントロのピアノでは和風な曲が始まるかと見せかけ、住んでみないと分かりにくい京都の風景、それとパリへの憧憬を重ね合わせた、ちょっとマニアックな曲になっています。それだけに京都へ頻繁に行く人、住んでる人は思わずにやけてしまいます。

 

 

■ 大宮×地下鉄

 大宮は、埼玉県の大宮と異なり一文字目の「お」にアクセントがつきます。これを間違えると京都人からゴミを見るような目で見られるのでお気をつけください(大袈裟)

 

 地下鉄の曲名の由来は、西院ー大宮間が近畿初の地下線として開業したことでしょうか。

6分半に迫る大曲です。「今はどんでん返しの時代じゃない 見えない絶望」「心配事なくなった未来は 面倒な約束しなくなって」という詞が響きます。外の陽を見ることのない地下鉄になぞらえた閉塞感と、将来に対する暗い感情が漂います。

これらを「裏切るな俺大人になるな」の一言がとても強く象徴しています。実は地上にでない方が幸福なのかもしれない、と暗喩しています。

サウンドは、この時期らしいロックのサウンドです。歌詞と共に、ロックンロールの本質へアプローチを試みていることがよく分かります。

 

■ 西院×ラヴソング

 西院駅は、「さいいん」と読みます。バイト中によく「にしいん」と呼ばれてこちらが戸惑いました。

しかし、ややこしいのはこの駅で接続する路面電車嵐電(らんでん)の駅は同じ感じで「さい」と読みます。これは難しい…。

西院でバスに乗り換えると、熊野神社北野天満宮金閣寺まで比較的すぐに着けます。

 

くるりの数ある曲でも、この曲はとらえどころがなくて難しいです。正直、気持ち悪い曲です。歌詞はブルースで、メロディのねちっこさはプログレっぽく、不思議な感覚です。少なくとも、ポップとは対極にあるのは間違いないです。

途中で歌われる曲作りの風景に、メロディが乗っていないのは面白いところです。歌詞と音がシンクロせずに淡々と進行していくのがやはり独特です。

 

個人的には、終盤のSEで流れてくる阪急のホームの音がハイライトですが…そんなのは自分くらいだろうか 。

■ 桂×春風

 桂駅は、桂離宮への最寄り駅。桂川を渡ってから最初の駅で、京都の中心からは完全に外れた場所にあります。

嵐山線との連絡駅で、春秋の観光シーズンや五山の送り火では大混雑します。車庫もあり、昼間に行くと洗車している電車を間近に見れたりもします。

 

春風は名曲中の名曲ですね。曲名に相応しいあたたかなサウンドと、共に語りたくなるような歌い方。それでいてアウトロではちょっと攻めたピアノとギターが聴けます。ゆったりとしたサウンドでも密度が濃く、しっかり噛み合ったアンサンブルで隙がなくつくられています。

「遠く汽車の窓辺からは 春風も見えるでしょう」の一文は、随所にちりばめられた春のモチーフを昇華させています。はっぴいえんどから始まる日本語ロックの一つのアンサーとも言える名文です。

 

■ 東向日×チアノーゼ

 東向日駅は、自分の所属駅の管轄からは外れたてた上に周辺に目的地がなかったため縁遠い駅でした。強いて言えば、JRの向日町駅がちょっと近いので乗り換えで利用したくらいです。

いつの間にか激辛商店街なるものができていて、非常に興味をそそられたのですが行く機会がないまま関東へ越してしまいました。

 

この曲はなんといっても「夕暮れ前の東向日駅梅田方面行きのホームが好きだ 本当に好きだ」の歌詞にしびれます。

サウンドは好き放題掻き鳴らしています。パンク…というにはちょっと大人しいかもしれませんが、個人的にはかなりパンクだと思います。崩壊させると見せかけてきちんと仕組まれたフレーズや装飾はいやらしさも感じます。自己批判と多忙な日常に殺されかけた、生きている時代も忘れてしまったほどギリギリの感情を叫んでいます。チアノーゼという言葉は唇や皮膚が真っ青になってしまう状態を指しますが、この曲では確実に心が変色しています。

 

■ 長岡天神×ばらの花

 長岡天神駅は、長岡京市の中心に程近い駅です。駅前も栄えていて、特急停車駅になってからは京都、大阪双方へのアクセスも容易になりました。

個人的にも思い出深い場所で、駅から歩いて10分ほどにある長岡京記念文化会館には演奏会を聴きに行ったり、ステージで演奏したりと幾度となく訪れた場所です。

 

ばらの花が長岡天神の駅スタンプとなったときに思い浮かべたのは、長岡天満宮の前にある池の景色でした。

ふわふわしているようでいて、芯のあるリズムで安定感を出しています。「雨」や「夜」など、しんみりとした印象を与える詞をメロディが際立たせています。それに対して「旅」「バス」という言葉が、遠い場所への憧れを引き出してきます。一瞬目の前が開けたような気がしたけれど、すぐに寂しい現実へと引き戻してきます。

 

■ 大山崎×HOW TO GO

 大山崎駅は、京都府内で最も西にある駅です。ホームの目と鼻の先に府境があります。京都・大阪のベッドタウンでありながら、自然も豊かで過ごしやすそうな場所です。

 

 くるりの曲のなかでもこれだけ骨太な低音は貴重です。どっしりと構えることで自由に繰り出されるリフ、歌、泣いてるギター。どこかレトロなサウンドで「How to play the Guiter」と歌っています。それだけ弾いときながら問われても戸惑ってしまいますが、それが狙いでもあるのでしょう。詞に夏という単語が入っているせいか、強い日差しのようなギラギラした感じもしてきます。

サウンドとは関係ないですが、この曲はオリジナルアルバムでもベストアルバムでもラストトラックに選ばれることが多いことです。そして偶然なのか、このスタンプラリーでも最後のスタンプに位置付けられています。なんとなく曲名とマッチしていて個人的には興味深いところです。 

 

 

■CDにして欲しいチョイス

アルバム曲やカップリング曲が多く、なかなか玄人向けだなと感じていますが、通して聴くと意外にバランスが良く驚きました。これだけでアルバムとして通用するのではないかと思います。京都というコンセプトも面白いので、アジカンの「サーフ ブンガク カマクラ」みたいな感じでCDを発売して欲しいです。

もちろん、ジャケットは表裏ともに3300系を起用して…。