ロキノン爺の逆襲

音楽のことをつらつらと。主にアルバム、曲のレビュー

 BOOM BOOM SATELLITES「LAY YOUR HANDS ON ME」

LAY YOUR HANDS ON ME

LAY YOUR HANDS ON ME

 

思っていても、口にしてはいけないことは世の中にありふれている。

一昨年、アリーナ公演が発表された際、その「口にしてはいけないこと」を直感した。考えるよりも先に手が動き、気がつけば手元にチケットがあったと記憶している。

しかし、そのチケットを使うことはなかった。

 

 

 

 

アルバム「LAY YOUR HANDS ON ME」から感じたのは、交響曲のような壮大さと世界観が広がった作品ということである。それは収録曲が4曲であること、表題曲の緻密さ、洗練さが相まった結果である。

これまでのシリアスな展開が多い作風とは対照的な、伸びやかさを感じる。このような曲がないわけではなかったが、一日の景色の移り変わりを全身で表現し、それに音楽が追従し、高音域における広がりにこだわったのは特筆できるだろう。有り体に言えば、彼らの新境地といったところだ。

「kick it out」という発明から、ロックンロールでありながらダンスとエレクトロニックを追求し、最後にはEDMと異なる次元へと到達した。他のミュージシャンと異なる存在感を放ち続けていたこと、時代が変わっても埋没することはなかったのは、先進的とも取れるこの音楽性をストイックなまでに貫いたからに他ならないだろう。

BOOM BOOM SATELLITESがEDMであるか否かは、微妙なところだ。彼らが昨今のEDMの先駆けではなく、EDMの行きついたスタイルが偶然にも彼らのスタイルに近くなってしまったからだと感じられる。個人的には、ビートの重さや作風の幅広さから、EDMではなく、テクノでもなく、ロックンロールだと断言している。けれど、後年になれば、彼らの評価がEDMの枠組みのなかで語られる可能性はあり得る。

もしかしたら、この作品の賛美歌とも言えるようなサウンドやアルバムが交響曲のように4曲が一つの作品として大成していることを考えれば、評価は若干変わる気がする。

 

 

リリース直後に通して聴いてから、しばらく手に取る気にはなれなかった。最後の作品として、彼らの終着点として、あまりにも出来すぎている。教科書に載るような作曲家でもここまで完璧ではない。

 

もっと遠い未来で行きついて欲しかった。もっと狂わせるような音を聴きたかった。

 

それでも、再び向き合おうと思ったのは、「NARCOSIS」の最後の音を確かめようと思ったからだ。

外でこの曲を聴いていると、音楽が今立っている場所へと溶けていく。「もっと鳴らしてくれ」「行かないでくれ」と、まるで小説のワンシーンのように叫びたくなる。

最後のブレス。きっとこのあとに歌ってくれると思わず期待をしてしまう。何を歌ってくれるのか?どんなシャウトが響くのか?

もちろん、何も流れない。外で聴いていれば、周りの喧騒に飲まれ、室内にいれば静寂だけが残る。隠しトラックもアンコールもない。

 

死を目前とした作品は、どうしても意味深な捉え方をしてしまう。それが予期されたものでも、突然のことでも仕方がないことだ。けれども、あくまでそれは受け手が想像したこと、そうしなければ残された者は救われないことでもある。いかにフィルターをかけず、この作品と向き合えるかを考えていたが、無理だった。

 

そんな自分を救ってくれたのは、皮肉にもこの作品だった。非常に単純なことだが、曲が全て暗くないということ、これだけでとても救われた。ズキズキと痛むような傷を残さず、胸が締め付けられるような思いで作品が終わる。分かりやすい暗さ、辛さを出さなかったこと。それだけで聴き手は救われてしまった。 聴く前に感じた、作品と向き合う恐怖から救ってくれたのだ。

 

 

 

立ち止まる、振り返るために生きているわけではないことをこの4曲が教えてくれた。涙を拭いて、でも胸にはちょっと痛みを残して、前に進む。そうすれば、またどこかで会えるかもしれない。