ロキノン爺の逆襲

音楽のことをつらつらと。主にアルバム、曲のレビュー

普遍的な音の楽しみと喜び くるり「ソングライン」

 

 この作品は、万人ウケするようなイカした作品ではないと思っている。キラーチューンがあるわけでもなく、大きなタイアップもない。ミュージシャンとのコラボもないし、インパクトは薄い作品だ。

では駄作かと言えば、そんなことはない。(実際には難産だったとしても)気の合う仲間で作ったような気軽な雰囲気、その裏ではロジカルに組み立てられたメロディが流れる。音の楽しみ、歌の楽しみを存分に感じられ、つくりの丁寧さが楽しさの説得力を増している。

前作「THE PIRE」のサウンドは実験的とでも言うべきか、異質な音を含む曲が連なる作品だった。これでもかというほどに様々な楽器を用いて、聴き手を混乱させる。一方でポップな楽曲も多く上手くバランスが取れていて、全体を通してエンタメ性の強い作品だった。それと比べると今作は作品の性質が大きく異なっているため、面食らってしまうのは致し方ないだろう。

歌を活かす

アルバムタイトルにソングが入る通り、今作では歌に注力した作品になっている。

日本語詞の味わいは、はっぴいえんどのそれを彷彿とさせる。優しい言葉で描き出す情景、人の温もりに触れた瞬間の感情、別れの直前の寂しさと再会への祈り。書ききれないほどのシーンを歌い上げる。近年の作品に見られる傾向だが、強い言葉を使っていないことにも気付く。歌が心地よく聴こえるのも、これが理由の一つであろう。

時代の花を すべからく集めて

残り僅かと 急ぐ景色を尻目に

(風は野を越え)

急行の止まらない駅でずっと

この道は 桜散るのもの早く

昼下がり 春霞 蜃気楼

未だ逢えぬ いつからか 涙の数かぞえて

(春を待つ)

いつの間にか流星が 願いごとを叶えて

あの時はありがとうと 素直に言えるまで

(忘れないように)

歌のための音

これらの歌を支えるのは、前衛さを今回はやや控えめにした音楽である。時期としては、交響曲第1番に取り組んだ後になる。楽器の使い方が全く変わっている。今までがダメというわけでは全くないが、一つ一つの音にこれまで以上に意味を持つようになり、音数としては多くないはずだが非常に豊かな音楽になっている。管弦楽オケで弾く交響曲のようなオーケストレーションをバンドのアンサンブルまできちんと落とし込んでいる。楽器的にはオケと関連性を見出せないように思うギターの音にも、こだわりが溢れている。 

 

唯一、これらの例外と言える、避けては通れない楽曲が「Tokyo OP」だ。

くるり - Tokyo OP /Quruli - Tokyo OP - YouTube

MV難しすぎ…

前々作「坩堝の電圧」、前作「THE PIRE」の流れを組むファンキーさでかっ飛ばしているインスト曲。

ギターのグリッサンド音まで聴き込んでしまう濃厚な作りや、強烈なビートに乗せて粘り強く展開されるソロ回し、人を食ったようなオルガンの音と聴きどころが存分に散りばめられている。

謡曲のオムニバス的なアルバム

ロックバンドのアルバムというよりも、普遍的な歌謡曲であり、ちょっとしたオムニバスアルバムという印象である。誰が聴いても心地の良い、そして意味のある作品だ。片方ができているものは非常に多いが、両方を達成するのは貴重だと思われる。一回聴いただけで「駄作だ」と決めつけず、何度も聴いていただきたい。

 

何となくだけど、以前より歌詞に鉄道出てくる割合がめちゃ増えてる気がする。

所詮 君は 独りぼっちじゃないでしょう

生きて 死ねば それで終わりじゃないでしょう

(ソングライン)

「ソングライン」で、ラヴェルの「ボレロ」のフレーズが入るところがお気に入り。

 

音楽の喜び、歌の喜びに溢れた一作。