歩み続けたことで得た包容力。BUMP OF CHICKEN「aurora arc」
どういうわけか、アルバムが出ると聞いても受け取り方が分からなかった。
バンプは、あまりにも大きくなりずっと戸惑っていた。初期〜中期のバンプと違うから聴かないとかそんな野暮な話ではなく、むしろ新曲は着実に進化していて感心していた。けれどもその大きさ故に直視が出来ず、俯瞰するようになっていた。
そんな微妙な感じで迎えた発売日。ライブラリに追加する瞬間に、昔のような高揚感をやっと思い出した。
一曲目から三曲目を聴いたとき、懐かしくて嬉しい感じ、温もりと少しの冷たさ、その他様々な気持ちを思い出した。自分の血肉となってしまったバンプは未だ存在し、興味を失いかけてた自分をも包み込んでくれた。
オーロラの音
「オーロラ」という単語をみたときに流れる音楽。クリアで、少しキラキラして、エコーがどこまでも伸びていくようなサウンド。なぜそんなイメージになったかは分からないが、1曲目「aurora ark」と3曲目「Aurora」ではそのイメージにぴったりとハマる音が流れる。
「Aurora」で頻出する「クレヨン」という固有名詞が、この曲の視点をグッと下げてくれている。日本人には(というか全人類の99%くらいには)縁がないオーロラを、遠くにある神秘的なものから自分で描くことで手に届くものであるように感じさせる。本物を見に行くための物語なのかな、とも思っている。
思い出の覗き穴
4曲目「記念撮影」の、少しザラザラとした言葉の質感は少しやられてしまう。音楽はややクリアで輪郭がはっきりしているのに、歌詞は高感度のフィルムのようだ。良い思い出だけでなく、悪い思い出にも入り込むような情景描写で正直つらい。にも関わらず何度も聴いてしまうし、アルバム内でも特に好きだったりする。歌詞の起承転結で救いがやや少ないのが等身大な印象で、リアリティを補強している。
5曲目「ジャングルジム」は、一番最初は聴き流してしまったが、後日改めて聴いて心底驚いた。藤くんが時おり見せる凄まじい切れ味を、アコギ一本で示してきた。「記念撮影」が思い出の傷口に塩を塗るのに対し、「ジャングルジム」では今の自分に冷や水を浴びせされているようだ。
6曲目「リボン」。ファンサービスと言えばそれまでだが、今までの物語を振り返り、認めてくれるこの一曲の意味、意義は大きい。出会って、ずっと聴き続けてきた人たちも自分たちの過去も決して忘れずに持っていってくれる決意表明に心を撃たれた。
現在地からの温もりと愛
「アンサー」はMVの印象がどうしても強すぎるけれど(「三月のライオン」いいよね)、歌詞のストレートさと熱量は作品中でも抜きん出ている。実直なメッセージで聴き手の手首を掴んで引っ張ってくれるような世界観は心地良い。
アルバム後半の程よい位置に配置された「Spica」は小さな曲だが、優しさや温もりを感じさせる。サウンドも面白く、ピカピカしていがらどことなくレトロなエフェクトが入ってきて、少し前の世界から届いたようなイメージを想起させてくれる。
最後の『いってきます』から、「新世界」に繋がる流れはややベタかもしれないけど、しっかりとハートを掴んでいった。
今作のリード楽曲と言って差し支えない、「新世界」。こんなストレートに『アイラブユー』なんて言うなんて…しかもただのI love you.じゃなくて『ベイビーアイラブユーだぜ』って。
バンプ楽曲における二人称は恋人っぽいが、明確に示していないのが特徴であると思っているのだが、「新世界」ではそれをハッキリと示している。それがとても新鮮だし、ここまで思い切った曲が出てくるとは思いもしなかった。それをとてもポップなサウンドで歌い上げるのだ。シングルで出てきたら「バンプ、どうした…」となりかねない…というか絶対なる曲だが、アルバムに取り入れることで世界観を象徴する楽曲として提示されている。やられた。
でもポップなバンプもいいね。『ベイビーアイラブユーだぜ』って26歳にもなって口ずさんじゃう。
バンプの真骨頂は隠しトラッ…、アルバムの最後の曲にあると思う。
「流れ星の正体」は、そんなイメージを裏切らない楽曲だった。距離や時間を示し、それを超えてくれるものの存在と正体を優しく示してくれる。
最後の大サビの歌詞。俯瞰していた自分をも見つけてくれたようだ。時間なんて関係ないと歌ってくれる。いつの間にこんな包容力のあるバンドになっていたのだろう。
揺るぎない童話的な言葉たち
久しぶりに聴いたバンプで安心したのは、独特な言葉たちのおかげだろ。
例えば最新の涙が いきなり隣で流れたとしても
(ジャングルジム)
絶望の最果て 希望の底
(シリウス)
頭良くないけれど 天才なのかもしれないよ
(新世界)
比喩表現としても、なかなか繋がらないワード同士を面白く繋げるセンスは健在である。一見いびつな組み合わせは、これらに続く歌詞で補完されることも多く、耳を傾けるきっかけにもなる。この効果的な手法は今後もぶれずに続けて欲しいと願う。
サウンドで言えば、前作や前々作のほうが意欲的であった感じは否めない。ただ、メッセージ性であるとか、楽曲のMVであるとか、一曲一曲が大作過ぎてアルバムに落とし込むのは非常に困難であっただろう。そんな状況ではあったがコンセプトの力も得て、丁寧にまとまっていた。一通り聴き終わったあとの充足感は、きちんとアルバムのそれであった。