ロキノン爺の逆襲

音楽のことをつらつらと。主にアルバム、曲のレビュー

決して弱音を吐かない生き様 チャットモンチー「生命力」

 

 

■ロックンロールだけで駆け上がった

ガールズバンド史はよく知らないので、完全にイメージだけで話してしまうが、日本ではどうもアイドル寄りの路線になって、活動を終えると異様に美化されてしまう印象がある。音楽性は二の次であるのは然りである。チャットモンチーはそんな風潮に流されず、また媚びることもなく、音楽だけで00年代のヒットチャートを登っていった。その姿は非常に清々しかった。

 

■隅々まで冴え渡る音楽たち

このアルバムでは、前作「耳鳴り」での迷いが断ち切れたことが聴き取れる。歌詞はファンシーさを残しつつもシニカルでありアイロニカルであり、気を抜くと刺してくる表現が増えた。

演奏では前作から驚異的な飛躍を見せた。三人によるアンサンブルで表現できる限界の域まで作り込まれている。音はシンプルなはずなのに、なぜここまで深掘りできるのかと恐ろしくなるほど音の密度が濃い。

 

1曲目「親知らず」は、アルバムの幕開けにしては哀愁が漂ってある。一人暮らしの人は多少なりとも心を掴まれてしまうのではないだろうか。そんな心情をフォークソングのように歌い上げていく。

 

キュートでポップなふりをした脅威のロックチューン「シャングリラ」の次は、歌声と歌詞のギャップが個性的な4曲目「世界が終わる夜に」。可愛らしい歌い方だが、何かにすがろうとする思いが歌声に乗っている。絶望的な感情を様々な言い回しで表現していて、その辛さがじわじわと心に入ってくる。

 

「とび魚のバタフライ」「橙」はガールズバンドの典型的な形をよく示している(決して馬鹿にしているわけではないので誤解なきように)。この辺りの楽曲に影響を受けたミュージシャンは相当多いだろう。

そのような曲から一転、彼女達らしいロックンロールを提示しているのは9曲目「真夜中遊園地」。ファンシーさとリアルさを行き来する世界観からは時にゾッとするような表現が顔を出す。前述したが、三人だけの音で作ったこと、その実力がよく分かる一曲だ。

 

それとは対照的な、可愛らしさが全開なのは11曲目の「バスロマンス」である。なんというか、いいなーって感じ。男がウダウダ言うのもアレなので語彙力落としておくからとりあえず聴き直してみて。

 

変幻自在な世界を見せてくれたアルバムは、13曲目「ミカヅキ」でしっとりと幕を閉じる。

 

■どれを取っても最高峰だった

ガールズバンド云々を中心にまとめているが、ロックバンドとして、特にスリーピースとしてのレベルの高さも引き立つ。いったい前作「耳鳴り」からどんな修行をしてきたのだろうか。

前作での方向性を概ね深化させるように舵を切ったことで成しえたこのアルバムである。中途半端にポップに寄らず(全く寄ってないわけではないけど)にいたことが大正解だった。道は多くあるなかで深めることを選んだ度胸とプライドに感服する。

 一方で、少し斜に構えた見方をすれば、ここでやり切ってしまったのかもしれない。同じ方向性に向かうには、色んな力を借りなければ苦しかったと思われる。もしくは方向性を曲げられるか。どちらにせよ、苦しい道になることは間違いなかっただろう。

 

ガールズバンドは星の数ほどいるし、色んな良さと方向性を持っている。けれど彼女たちがナンバーワンだ。