ロキノン爺の逆襲

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クリスマスの憧れは、忘れなくても良い。Jamie Cullum「Turn On The Lights」

Turn On The Lights

Turn On The Lights

Jamie Cullum - Turn On The Lights - YouTube
小さな頃、クリスマスが大好きだった。プレゼントが貰えることの嬉しさはもちろんだが、街が光り輝き、鈴の音色が華やかな歌が流れ、12月24日に向けた高揚感が愛おしかった。

「小さな頃」とは言ったが、実は今もさほど変わりはない。9月ごろにはスタバの新作とイルミネーションの点灯が待ち遠しくなる気の早さだ。

 

疫病が蔓延する2020年、クリスマスもまた例年通りとはいかなかった。不自由さを感じながら何とか楽しもうとしたが、気がつけば12月25日になっていた。物足りなさを感じながらマックで一息ついていると、軽快なクリスマスソングが流れてきた。ジェイミー・カラムの「Turn On The Lights」。自分の端末で改めて聴いてみると、素晴らしいプレゼントが再生された。

クラシックな響きが織りなす冬の景色

サウンドは冬の朝みたいに張りつめた空気感のあるストリングス、暖炉みたいな暖かみのある管楽器が中心となっている。そこにジャズの軽快さを取り入れたピアノと、パーカッションが加わる。特にこの二つが加わることでビート感がグッと増す。ポップな曲でありながら、クラシックの深みが風景のイメージを広げている。

冷たさと暖かさが折り重なったところで時おり入る鐘の音がホリデーシーズンの街並みを、グロッケンのこまやかさが輝く装飾を想起させる。冬のイメージを絶妙に配置して音で表現している。

原風景と憧れはいつまでも残る

歌詞はクリスマスの風景を表現している。トナカイや靴下、雪だるまが登場するのは誰もが思い描くクリスマスそのものだ。

しかし童謡の世界と大きく異なるのは、その距離感だ。どこか俯瞰している、あるいは思い出を数えるような視点で歌っているのだ。けれど諦めているわけではなく、むしろ強い憧れを抱いているように感じる。

Another Christmas is around the corner

And I can feel us, darling, getting closer

It's coming down the road,and stopping it now 

Stopping it now is impossible

クリスマスの高揚感、そしてそれに併せてやってくる人たちを想う一節。原風景とは異なる世界にいるかもしれないが、愛おしいものを待っていることに変わりはない。

輝きの持つ力は

曲名であり、かつ何度も歌われる“Turn on the lights"という一節。華やかなイルミネーションも、街や家の灯りも思い起こすが、どちらでも正解だろう。

色温度の高さが安らぎを与えるのか、灯す人たちの気持ちが伝わっているのか、どちらにせよこの季節の灯りは温度とは異なる温もりを持っているように感じる。その力を表現する一節であるように思う。

 

曲のラスト、調が変わり音がより伸びやかになる。音の広がり方は空から街の灯りを見ているようでもある。切なさは感じず、憧れの気持ちを満たしてくれるように曲が終わる。壮大なドラマはなくても大切に過ごしたい季節であることを強く感じさせる。

 

 

余裕のないまま流れ去った今年のクリスマス。多くの灯りを眺めながら、穏やかに過ごすクリスマスが再びやってくることを心から願っている。