ロキノン爺の逆襲

音楽のことをつらつらと。主にアルバム、曲のレビュー

00年代の指標 ASIAN KUNG-FU GENERATION「ソルファ」

アジカンの出世作と言える一枚。最も勢いがあったタイミングといい、粗っぽさが減り深みが増した楽曲といい、恵まれた状況下でリリースできたことを感じる

全体像としては、彼ららしいロックンロールをぶれなく提示している。これ以降の作品が(良作ではあるが)実験的であったり、やや軸が不安定であることを考慮すると、現在でも愛され、影響力を持っているのがこの作品であることも納得ができる。



M1「振動覚」は2分半弱と短めながら、アルバムの全体像を聴き手に示している。

『世界の端まで届く声より
君にだけ 伝えたいだけ
六弦の三フレット 刻むマイ・ギター
心だけ 奮わせたいだけ』

『特別な才能を
何ひとつ持たずとも
心 今 此処で掻き鳴らす』

詞が語る、彼らの現在地への戸惑いと決意も魅力的だ。

M2「リライト」は、もはや語るまでもないだろう。00年代の曲が今もラジオで流れてくるというのは驚きである(それも、10代からのリクエストで…!!)。

M3「君の街まで」ではややテンポを落とし、M4「マイ・ワールド」は遅くはないが強めの歌い方で、続けて聴くと緩急が分かり心地よい。

M5「夜の向こう」は、「ファンクラブ」以降にも続く要素がふんだんに含まれている一曲だと考えている。歌い方に語り口調が見られ、詞の情景描写も他の曲より文学的である。

M6「ラストシーン」は、アルバム内で最も際立った作品である。テンポは遅く、ビート感もつかみにくい。バックコーラスも印象的だ。

『そっと目を伏せて
逃げ込んだはずのワンダーランド
失くした想いも拡がって弾ける
さよなら

溶けるほど澄んだ空』

これは邪推かもしれないが、悲しさ際立つ歌詞は、当時の不安が反映されているのではないか。「振動覚」とは真逆である。力強さだけではない、弱みを一瞬見せる様が作品のバランスを、たった一曲で作ってしまっている。
残念なのが、このような曲は「ファンクラブ」以降では発表されなかったことだ。影響を受けたであろう曲は多いが、ここまでハッとさせられたことはない。

M7「サイレン」では再びビートが蘇る。それに引き続きM8「Re:Re:」で明るい感じへと戻っていく。

「Re:Re:」ポップと言えるか言えないかの境界線にあるキャッチーなメロディに対し、あえて跳躍しない丁寧な歌い方が面白い。おそらく、もっと軽やかに歌えばポップになっただろうが、それを行ったらアルバムのバランスは崩れていただろう。

M9「24時」は直球かつ王道の曲構成であり、「夜の向こう」や「Re:Re:」と比較してそのシンプルさが輝く。ただ、軽い感じは否めない。

M10「真夜中と真昼の夢」は、「ラストシーン」と同じ線上にあるはずだが、スッと耳に入ってきて、印象に残りにくい
。ビートの有無、歌い方の差などによるからだろうか。

M11「海岸通り」は、アルバムのなかでは最も具体的な情景が浮かぶ曲である。抽象的もしくは文学的な曲が多いなかで、春の海岸の夕暮れを歌い上げている。ソングライティングの幅広さを示している。そして、この幅広さは「サーフ ブンガク カマクラ」で存分に発揮されることになる。

M12「ループ&ループ」。この曲を最後に持ってこれるとはなんて贅沢だろうか。


アルバムを通して聴くと、楽曲の構成、緩急の付け方が良くできている。前述したロックバンドとしての芯を大切にしつつも、独りよがりでは作れない、かといって背伸びしすぎないストーリーを組み立てている。


彼らはデビュー当初、とある音楽雑誌では「東洋のWezzer」としばしば書かれていた。とあるバンドスコアでは、「ナンバーガール的なサウンドで…」と書いてあった(ちなみに友人はその解説のせいで、ある曲をずっとナンバーガールのカヴァーだと思っていたらしい)。いい加減というか、ひどい言われようというか…。
しかし、そのような話を聞かなくなったのは「ソルファ」の辺りからだろう。
君繋ファイブエム」までのアジカンのサウンドはWezzerに限らず、90年代の洋楽の影響を多く感じられた。そういう点はいかにも日本のバンドらしいと感じてしまうが。それらも「ソルファ」である程度昇華でき、自身の独自性をアピールできるようになったと考えられる。

00年代は、様々なバンドが出てきたが、2016年のいま、驚いたのはその日本のバンドに影響を受けた(であろう)バンドが数多く見られるようになったことだ。そのような状況になって感じるのは、この作品が00年代における邦楽ロックの指標の一つとなったことである。
近年人気のあるバンド、特に四つ打ち系のものは確実に「ソルファ」を通過してきたと感じる。むしろ、避けて通った人は少ないのではないか。惜しいのは、00年代邦楽ロックの影響を受けたものの、それを薄めただけのサウンドが現状は多いことだ。皮肉にも初期のアジカンがそうだったように、そして日本の音楽がずっとそうだったように、必ず通る道なのだろうが…。

そんな「ソルファ」だが、今年の秋に再録盤がリリースされる。2016年のいま、指標となった作品が再提示されることは楽しみである。10年前より洗練された音楽性を存分に発揮していただきたい。また、10年代後半や20年代を牽引するであろう未だ見ぬミュージシャン達に響き渡ることを望んでやまない。